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オリジナルアニメを作るという事

一応、自分の本業はアニメの企画や文芸となっています。
そして、今現在で08年予定を2本、9年予定を1本、期日未定に1本関わっています。
それぞれ毎週打合せがあって、少なくとも3時間位は続きます。
往復の時間を考えると、5時間や6時間、ヘタすると半日は拘束されます。
で、これの収入がどんなもんかというと?


ゼロです。

ぶっちゃけ、交通費やお茶代や飲み代などで足が出ています。
まあ、そんなのは大きな額では無いですが、それ以前に問題なのは、同じ日に打合せが2つの時もあるので、週に3日くらい打合せで潰れる訳ですね。
下手すると、1日に3つ打合せが被る事もあります。
そうすると、もう1日何も出来ません。
そして、それらの打合せ用のメモを作ったりするので、1日や2日平気で潰れる訳です。
週に5日くらいは、打合せとその準備で潰れたりする訳ですね。
そこまでやると、土日のどちらかはまず使い物にならなかったりします。

すると、最近の本業になりつつある物書きの仕事にも大きく支障が出てくるわけで。
書ける日が、週に1日くらいしかなかったりもします。
小説などの文章を書くのには、アニメ企画モードから頭の切り替えが必要で、それにはある程度の時間がかかります。ですが、打合せでその切り替えが出来ないと、1日空いた日があっても、全然書けなくなったり。
アニメで収入が無いので、物書きでお金を稼がないと生きていけないわけです。
しかし、その物書きをする時間がどんどん少なくなっていくわけですね。
この悪循環に今は入り込んでいるわけです。

ではなぜ、それだけ関わっている仕事でお金が出ないのでしょうか?
それがアニメ業界の貧しい所です。
オリジナルアニメを作るのには、まじめにきちんとした物を作ろうとすると、大体3年かかります。
ではその3年で関係スタッフにお金が出るのはどの位でしょう?
3年? 2年? 1年?

実は最後の1年の実制作に入ってから、というのが大部分です。
最初の1年は企画開発時期で、どんな作品にするかとか、お題が決まっているならそれをどう料理するかとか、キャラクターデザインやメカデザインを誰にしようかとか、監督や脚本は誰がいいだろうか何て事を、マーケティング含めて考えます。
場合によっては、どのメーカーと組むのが良いか、メディアミックス戦略とかゲームとかはどこと組むのが良いのかまでも考えます。
お金の集め方、回収の仕方までも考えたりもします。
それらのアイデアが固まった所で、メーカーに営業して行きます。

オリジナルが、ある特定の監督やクリエイターに偏るのは、ここの課程があるからです。
メーカーに営業しても、普通企画の善し悪しは先方さんも判断が難しい所です。そこそこ出来る人なら、企画書から判断出来る場合もありますが、上層部や最近の若手にそれを理解させるのは難しい場合も多いです。
同じ企画なら、過去に実績がある監督などの企画の方が通りやすいわけですね。
あの人の作品なら、前にあれだけ売れたから、今度も行けますよと言えるわけですから。
ここで例えばアニメのパイが100あるうち、オリジナルが10だとしたら8くらいがそんな企画か、プロデューサー主導の企画に食われてしまうわけですね。

プロデューサー主導の場合は、こちらから営業する事はありません。
メーカーから「こんなのやってよ」と来るので、向こうが気に入りそうで、でも自分達もやりたい物を提案していく事になります。でも、こっちが楽かというと、プロデューサーの意向が強いので、それを納得させなければならないのが大変です。
プロデューサーはそれぞれ好みがありますから、それをうまく取り入れて行かなければなりませんので。

で、この段階ではお金は1銭も出ません。
企画が通っていないわけですから。
では、企画が通ったらお金が出るか?

これも出ません。
まだ予算も内容も決まっていないし、先方さんだって、脚本も読まずにお金は出しません。
監督と脚本家と何度も打合せをして、シリーズ構成を作らないとならないですし、プロデューサーがその構成にGOを出すまで練る必要があります。
これに2年目の半分は軽く食われます。
その間にキャラやメカのデザインラフが出始めたりして、それで更にキャラのイメージが固まったりもします。
でも、まだお金は出ません。

そろそろ脚本にも取りかかる時期、この頃になって漸くお金が出そうな気配です。
理想は、脚本は放送開始前に全話終わっている事です。
2クール26本の作品だと、月に3本決定稿が出れば良い方向でしょう。
すると大体9ヶ月、まあ普通1年はかかる訳ですね。
脚本を何本か見て、そろそろ契約が固まりそうな状況、お金の臭いがしてきます。
でもここでも安心は禁物、ここまで進んでいても企画が頓挫する事もあるわけで。
実際、ここ最近で2作品、シナリオが最初の4本くらいまで進んでいて、キャラデザやメカデザも進んでいたのに中止になった企画があります。どちらも収入は0です。

これだけかかるとなると、普通原作物やりますよね。
極端な話をすると、風の噂ではある原作物は、放映3ヶ月前に監督や脚本が取りかかっても放映に間に合わせる事が出来たとか、もっと短い期間でなんて話もちらほら聞こえます。
3ヶ月前は大体アニメ雑誌に情報が出る頃、この時点でスタッフに「未定」があると色々危ないんだなぁ、と思っていただければ。
ここまで極端でなくても開発に時間がかからない上に、原作の数が分かるからスポンサーもGoを出しやすいわけです。
今のアニメ業界は、会社の方向性としてオリジナルを作ると決めて、そのために内部スタッフを抱えている一部の例外を除いて、これほどオリジナル作品が作りにくい状況となっているわけです。

まぁ、そんな状況ですからある程度作れる人は、他へ流れていっちゃうわけですが。

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